TOP > 受賞作品 > 第19回 ライトノベル ファミ通文庫部門
歴代受賞作品
インフォメーション
応募総数
533作品
最終選考候補
4作品
総評
川崎拓也
(ファミ通文庫編集部 編集長)
この度は多数の作品をご応募いただきまして、誠にありがとうございました。今回は総数533作品となりました。厚く御礼申し上げます。第19回となる今回、応募作の傾向としては例年から大きく変わることなく、流行の「異世界転生 or 転移」をはじめ、「異世界ファンタジー」「学園ラブコメ」「異能バトル」と幅広いジャンルがほぼ偏りない状況であったと思います。加えて、複数作品を応募する方が増えてきたのも近年の特徴で、その場合もジャンルを絞らず様々なテーマ・ジャンルで書かれている方が多いというのが印象的でした。改稿された作品も多く、その影響か作品全体的なレベルは上がってきているとも思います。ただ、まとまりが良くバランスのとれた作品は多いものの、あともう一歩突き抜けた部分さえあれば最終選考までいけたのに……という惜しい作品も多かったのが今回の特徴であったと思います。今回は、惜しくも大賞作品の選出には至りませんでしたが、受賞作の4作品は、いずれもその一歩を突き抜けた作品であり、バラエティに富んだものでした。受賞作は2018年の刊行を予定しておりますので、ぜひご期待いただけますと幸いです。
受賞作品
◆優秀賞 賞金50万円
『三国破譚——外道劉備と偽孔明——』
★作者:祈塩燈
広島生まれの転勤族。人生の大半は関東暮らしだが、家では関西なまりで話す謎の生物。趣味は旅と言いつつ、ここ数年はほとんど外出していない引きこもり系。
★受賞者コメント
この度は拙作に優秀賞という望外の評価を頂き、まことにありがとうございました。応募時点では、もし自分が受賞したらおもしろいコメントで大爆笑を狙ってやるぞと意気込んでいたのです。しかし、いざ受賞してみると、感謝と驚きで月並みな言葉しか出てきません。でも、気持ちは本当なのです。重ねて厚く御礼申し上げます。
★作品内容
三国志好きの高校生中原天人は、いきなり三国志の武将が女性化した世界へと召喚される。すると目の前にいるのは三国時代の政治家でもあり軍師でもある諸葛亮孔明! あまりの事に戸惑っている天神に、孔明は頭を下げ頼み込んできた「自分に変わって劉備に仕えて欲しい」と——。そして孔明の頼みを聞いた天人の元に劉備、関羽、張飛の三人が現れ、共に三国統一を目指そうと誘ってくるだが……。なんと聖人君子かと思われた劉備は、曹操軍と戦う気はなくニート暮らしを夢見るダメ人間だった!? 三国志好きな少年が孔明となって群雄割拠の時代を生き抜く異世界ファンタジー、登場!!
【選評】
読んで思わず一言「巧いな!」と唸ってしまいました。三国志ゲーム好きの主人公が、三国時代にタイムスリップ。なんと彼をその時代に喚んだのは、あの孔明! しかも劉備や関羽、張飛たち名だたる傑物は全員女子で!? という「このアイデアでやってくる作家がいたか!」素直に目から鱗が落ちてしまった作品です。作品の初期設定を聞くと確かに新鮮味の点で不安があるかもしれませんが、冒頭からのストーリー本筋に入る展開やキャラ配置と動かし方、そしてなにより書き手の三国志に対する溢れる愛情がダダ漏れであること、と全体的なレベルが非常に高いことが受賞の決め手となりました。三国志を知らない読者にも面白さを伝えようと努力している点、そして実際に伝わっている点も高く評価されました。
◆特別賞 賞金15万円
『「死ね」と言ってはいけない理由は?』
★作者:黒九一七
神奈川県出身。素手の肉弾戦や剣戟、異能バトルに銃撃戦、市街戦、野戦、塹壕、上陸戦等、とにかく(命がけの)バトル物が好き。媒体問わず好きですが、中でも視点人物と感覚を共有しながら愉しむ活字媒体が大好物。
★受賞者コメント
この度は本当にありがとうございます。身も蓋もない能力の主人公ゆえ大いに不安もあったのですが、ファミ通文庫様の懐の深さにただただ感謝です。このチャンスを橋頭保に、たくさんの読者様を楽しませられる作家を目指し、精進します!
★作品内容
竜を倒し、加護の付与された素材を手に入れる職業・討伐屋。討伐屋になって2年、ジンは未だに最低ランクのF級のままだった。酒場に集う同業者からは嘲笑を通り越し、気の毒な視線を向けられる毎日を送るジンだったが、ある日、稀少なC級装備を纏う少女エインのパーティーに強引に入れられ、何故かクエストを手伝うことに。ジンの役割は、エインのパーティーの荷物持ちや飯炊き。女の子たちにこき使われながらも、なんとか無事にクエストを達成! と思いきや、エイン達はD級の粘竜に襲われてしまう! 楽勝……のはずが、C級のはずのエインはズタボロ、残りのE級の仲間も当然、刃がたたない。成す術もなくエインが竜に貞操を奪われかけた時、ジンはやむなく『力』を発動させて——。その必殺の言葉は最大の禁忌。最弱の必殺を持つ少年のアクションファンタジー!
【選評】
なかなかにショッキングなタイトルで、いったいどんな物語だろうかと読む前から興味が引かれる作品というのは毎回それほど多くはないのですが、この作品はまさしくその中でも上位に位置する作品です。しかも、いざ読んでみるとその特異な世界観に引きこまれてしまいました。強大な竜と、その竜を打ち斃す者達《討伐屋(スレイヤー)》。そして人である討伐屋が竜に対抗するために使いこなす《加護》。そんな舞台設定の中で主人公のジンの持つ最強のスキルをどう活かしていくのか。このスキルを中心に展開や構成を考えると、もっと楽な方向に物語創りをするのは可能だったと思います。しかし、この作品はあえて難しい方向に舵を切ってチャレンジしていました。それがあたかも本作の主人公ジンの生き様のようで、読み手の感情も重ねることに成功していると思います。熱いバトルファンタジー作品です!
◆特別賞 賞金15万円
『引きこもり勇者VS学級委員長まおう』
★作者:春日山せいじ
『いつか空の飛び方を知りたいと思っている者は、まず立ち上がり、歩き、登り、踊ることを学ばなければならない。その過程を飛ばして飛ぶことは出来ないのだ』——ニーチェの言葉です。この言葉をきっかけとし、また支えとしてここまで来ました。そして未だ飛べていない自分には、まだこの言葉が必要なのだと思います。石川県金沢市出身です。
★受賞者コメント
作品は自分の子供と同じなのだと思います。生み出すまでは大変ですが、生まれてからは独り立ちしていきます。我が子がすくすくと育っていく様を、時には横から助言して見守るような感じでしょうか? 特に作品の中のキャラクターたちは本当に可愛くて仕方がない。この度は我が子にこのような栄誉ある賞をいただき、本当にありがとうございます。
★作品内容
魔王が和平を申し出て、勇者はいらない子となった——。やがて時が経ったある日、引きこもりとなった勇者の部屋にドアを吹き飛ばして現れたのは、彼の通う学校で学級委員長に就任したあの魔王(女子)だった。毎日プリントを届けに来る魔王と、勇者は一緒にゲームをプレイするように。家のあらゆる物を破壊する非常識な魔王に勇者は辟易するものの、二人はすっかり仲良くなっていく。しかし魔王は考える。自分は友達として、そして学級委員長として勇者を学校に連れ戻すべきではないか、と。しかしその後の話し合いでは平行線を辿り、遂に二人は戦闘で決着をつけることになってしまう。勇者は元パーティメンバーの魔法使い、僧侶、武道家の三人に助力を願い出るが、事態はあらぬ方向に進んで……? 勇者と魔王が登校を巡り激突する非日常のローファンタジー、開幕!
【選評】
魔王軍の襲来が予期された地球。最後の切り札、勇者に選ばれた少年。しかし魔王自ら停戦を宣言したことにより、少年はあらゆる梯子を外されてしまって……。そんな「いらん子」となってしまった元勇者の少年と、魔王の少女がゲームを通じて心を通わせていく過程がハートフルな作品。脇を固めるキャラクター達も、役割がわかりやすく魅力的に描かれていました。特に勇者のお母さんの大物ぶりが素晴らしい。そして、今回の受賞となった決め手、自分の放り込まれた境遇から引きこもりとなってしまった勇者の「絶叫」。それが登場人物達だけでなく読み手の心も打ちました。ファミ通文庫のいつものあの枠でもある作品です。
◆特別賞 賞金15万円
『老人と女子高生』
★作者:かめのまぶた
奈良県出身。ソーセージパンが好き。でも焼肉とソーセージパンどっちかおごるよって言われたら迷わず焼肉を選ぶことに気が付き「私のソーセージパンへの想いはその程度だったのか……」と思い悩む毎日。
★受賞者コメント
アニメを見ているとき以外は死んだ魚のような目をしているので表情には出ませんが、賞をいただいてとても喜んでいます。チャンスをくださった選考委員のみなさん、支えてくれる家族ならびにズッ友のみなさん、本当にありがとうございます。がんばります。
★作品内容
超絶ネガティブ、だけど心の中は元気いっぱいな女子高生の瀬宮憂海は憧れのお嬢様学校に入学を果たすも、なかなか周囲に打ち解けることができずにいた。そんなある日、一人になれる場所を探しているうちに、人影のない廊下へと辿り着く。そこは女子高生の太もも——はおろか下着さえも誰にも気づかれることなく眺めることができる魅惑の場所であった! しかし、そこに現れたのは人気老教師、豊橋厳蔵。彼はその場所を以前から縄張りにしており、占有権を主張する。占有権を巡り、熾烈な頭脳戦を繰り広げる二人。戦いの結果、二人はその場所を共有することになり、不思議な友情が生まれるのだった。そして、二人は学校内の謎について語るようになり——。秘密を共有する老人と女子高生による謎解き相談、はじまります!
【選評】
女の子が大好きな女子高生が、女子生徒のスカートの中が覗けてしまう禁断の場所の占有権を巡って老教師と舌戦を繰り広げる——という、かなり上級者向けハイ・エンド作品。飛び道具に走ったと思われるネタではありましたが、読んでいると癖になってしまいそうな読み心地の良さで、ついつい読み進めてしまい、ラストは謎の感動を味わってしまうという。とにかく老教師が素晴らしいキャラ立ちをしています。ライトノベルとしてはいかがなものか? と最終選考会でも賛否両論の長く熱い議論を呼んだ本作。しかしむしろ、ファミ通文庫は、この作品を受賞させるようなレーベルでありたいという結論となりました。ぜひ読者の皆様のもとに届けたい作品です。