TOP > 受賞作品 > 第14回 コミック部門
歴代受賞作品
インフォメーション
応募総数
31作品
最終選考候補
なし
選考委員
フェローズ編集部
総評
編集部
フェローズは2008年10月に創刊しました。コミックビーム、コミックビーズログ キュン! に続くエンターブレイン第3の漫画誌です。えんため大賞に参加するのは、この第14回が初めてになります。結果は、受賞者8名という実りの多いものになりました。
受賞者たちは現在、担当編集者と打ち合わせを重ね、新作をどんどん描き始めています。すでにフェローズに掲載されたものもあり、そのフレッシュな作品群が誌面を沸かせています。
今回の選考会で注目したことのひとつに「執筆時の粘り強さ」があります。根気を持って、集中して、漫画を制作しているか。受賞作からは、物語の練りこみ・作画の丁寧さといった部分から、その粘り強さを感じることができました。
受賞作品
◆優秀賞
『Cage』
★作者:高江洲弥 たかえす・やや
プロフィール:3月14日生まれ。沖縄県出身。大学でファッションを学ぶために上京したら、いつの間にか漫画を描き始めていました。
★受賞者コメント
賞を頂けて嬉しく思います。ありがとうございます。昔の自分に、今の自分が漫画を描いてて、賞も貰ったんだよ、と言っても信じてもらえない自信があります。
★作品内容
男は、ひとりの少女を衝動的に誘拐してしまう。6年後、美しく成長した少女が発したのは、男が思ってもみない言葉だった……!
【選評】
漫画家をやっていくのにとても大事なものが、高江洲さんの作品には見られます。それは「根気」です。最初のコマから最後のコマまで集中力を切らさずに丁寧に描きあげる姿勢は、プロ向きだと言えると思います。作品に関してですが、登場人物の服装や女性の髪の毛には力が入っていて見るべき物があります。その反面、家具や建物などの背景はいまひとつ。もっと気を配るといいと思います。目力の強い女の子も良かったですが、気の弱いヤサ男のほうがより魅力的に描けています。「男描き」ですね。男のキャラクターを主人公にした作品も読んでみたいです。
◆優秀賞
『菊花騒乱!』
★作者:渡邉紗代 わたなべ・さよ
プロフィール:1985年、うつくしまふくしまに誕生。高校生の頃、三国志により歴史に目覚める。以後ただの歴史オタクになる。好きな人物は諸葛孔明と石田三成と土方歳三と玄奘と木村銃太郎。老子が心の支え。
★受賞者コメント
受賞できて嬉しいです。26~27歳といえば孔明が出蘆し、玄奘が天竺に向かった歳です。彼らと同じ年齢でスタートできた事が何より嬉しいです。これからも自分の信念に従って頑張っていこうと思います。
★作品内容
おてんば娘の菊姫は、ある日、爺やに黙ってお城を抜け出してしまう。お付きの少年・ヨモギを道連れに、菊姫の大冒険が始まった!
【選評】
上手いです。確かな画力で、おてんばなお姫さまとお付きの少年のドタバタが生き生きと描かれています。絵のレベルは既に高いところにあるのではないでしょうか。特に着物の描きかたが手馴れていて、時代もの、和ものが好きなんだろうなという印象を受けました。主人公のお姫さまよりも、お付きの少年と、途中から出てくるやさぐれた中年男のキャラクターのほうが魅力的に描けています。中でも中年男は、普段のだらしなさと、ここ一番の格好良さのギャップがうまく表現できていて読者を喜ばせそう。まずは、自分の好きなもの、得意なものを題材に描くことからスタートすると良いと思います。登場人物を絞ってじっくりと描いてみることもおすすめします。
◆特別賞
『HONEY DROP』
★作者:稲田晃司 いなだ・こうじ
プロフィール:稲田晃司、齢30。東京都吉祥寺近辺在住。青春真っ盛りの高校時代に仏漫画BDに魅せられてから、ビジュアル主体の作品作りを目指し制作。イラストレーター時代を経て、漫画の世界へ。エンキビラルに代表されるような色気のあるオリジナリティー溢れた作品作りを心がけています。
★受賞者コメント
高校時代にBDを読む若者など周りにおらず、友人のいない高校時代を過ごす。メゲる事なく漫画を描くも芽が出ず。漫画家になりたい! その一心で齢30になりデビューできました。ただ弱点が……オチが弱い! オチが! ……オチがね。
★作品内容
優勝者が手にできるのは「欲しい物何でも」。田舎町ハニ―ドロップタウンで開催される一発芸の大会で、様々な思惑が絡まり出す!
【選評】
トーンを多用しない、白黒のハッキリした個性的な画面が目を引きます。ストーリーは人情物でわかりやすく、読者を選びすぎない作品になっています。稲田さんは、描ける構図の多様さや思い切ったアクションシーンなど、絵で読者を楽しませることができます。だからこそ、雑に描いてしまう所や、キャラクターの描き分けが不十分だったりする点は今後気をつけていくべきでしょう。SFや人外ものなど、変な造形のキャラクターを存分に出せる舞台設定だと、稲田さんの個性が生きやすいのではないかと思います。優秀賞のふたりとは一転、女性のほうが魅力的に描けています。日常的によく女性のことを観察しているのではないでしょうか。
◆特別賞
『The Handbook ~虹の彼方~』
★作者:大窪晶与 おおくぼ・あきよ
プロフィール:1982年10月24日。神奈川県出身。9歳の時、何気なくアニメを見ていて、「私は原作をやりたいなあ」という理由で漫画家を目指し始める。ちなみに見ていたアニメは『南国少年パプワ君』です。
★受賞者コメント
創刊以来憧れていた漫画誌で賞をいただき光栄です。あのフェローズに自分の漫画が載るなんて! 掲載された日の日記にこう記したのを覚えています。漫画諦めないでよかった!
★作品内容
1冊の古い手帳。大学生である“私”は、先祖ケインがその手帳に書き記した体験――ある男との出会いと別れ――に思いを馳せる。
【選評】
新人離れした画力の高さがあります。トーンワークの技術も多彩で、仕上げまでキッチリできています。魅力的な線で描かれるキャラクターの造形が良く、読者人気をつかむことができる作家だと思います。また、20ページと短いページ数ながら、友情と文化の違いが生む葛藤をきっちりと描ききっている点も好印象。自然物や背景の描写をもっと頑張ると、独立戦争時のアメリカという舞台設定にぐっと説得力が出て、更に作品の質が高まったでしょう。大窪さんには、描ける絵の幅の広さや、描こうとしているもののスケールの大きさがあります。「日常」だけに留まらない、骨太の大きな物語を描ける作家になれるのではないかと期待しています。
◆奨励賞
『飛んでけ魔法使い!』
★作者:衛藤誠 えとう・まこと
プロフィール:1981年大分県生まれの兵庫県育ち。漫画家目指すキッカケは恐らく『ドラえもん』。失敗続きの果てに(クビとかね!)「どーせなら好きな事やろ」で今の僕があるのさ。大学時代は常時下駄履き。好きなものは女体!
★受賞者コメント
思えばコレを描いてた時は四畳半で居候真っ最中……。しかもペン入れをファミレスでやるとゆーハタ迷惑な客でありました。その作品が奨励賞を頂いたとあって、店員さんもうかばれるハズ! 何とも感慨深いですね!
★作品内容
魔法がてんで使いこなせない、ドジっ子魔法少女の姫野さん。優しい出雲先輩に励ましてもらってひたすら特訓。さてその成果は?
【選評】
明るく楽しい話を、取っつきやすい絵柄で描いています。「見ていってね、読んでいってね!」と誘われている気がして、パッと手に取りやすい。キャラクターを描くのは上手いですね。特に女の子の身体を描くのが好きなのだと思います。主人公は魔法少女という設定なので、劇中ではずっと飛んだり跳ねたりしているのですが、伸び伸びと描かれていて飽きません。また、誤魔化したり、興奮したりしている時の表情や仕草も色々と工夫してますね。「そのキャラクターがどういう心情(状況)なのか」ということを、衛藤さんがセリフだけでなく絵からも伝わるように描いているので楽しく読めます。とはいえ、キャラクター以外の絵は修行が必要です。漫画にとって絵は基礎体力! 絵を上達させないと、作家活動を続けていくうちに息切れしてしまいますから。
◆奨励賞
『人魚の海女さん』
★作者:柘植真由美 つげ・まゆみ
プロフィール:平成4年生まれのゆとりっ子。愛を知ってるぞ愛知県出身。大学生なうなので授業中いかにおいしいお肉を食べれるか悶々と考えていたらそうだ漫画家になればいいジャン、と思い今回の賞に応募しました。
★受賞者コメント
♥華♥の学生生活の真っ只中【えんため大賞奨励賞】を頂きありがとうございます! おかげさまで一瞬にして毎日ジャングルの中を独りでわくわくしつつさ迷う冒険家になったような気分の学生生活に変貌を遂げました!!
★作品内容
海辺を取材中、偶然にも大スクープを手にした新米新聞記者の青年。出世欲に目がくらんだ彼に、海の女からの厳しい天誅が下る!
【選評】
絵を描くのが好きなんですね。細かいところまでしっかり描き込んだ海の中のシーンは見ごたえがあります。柘植さんは、とにかく思い切りがいいです。16ページの作品で見開きを使ったり、今までに無い人魚のキャラクターを描こうとしていたり。非常にきっぷの良い、読んでて気持ちのいい作品です。一方、最後のほうでは大雑把に描いてしまっている箇所も見受けられます。デッサン力は高いものがあるので、ペンに慣れる練習をして下さい。柘植さんの持ち味であるダイナミックさを失わずに、丁寧に原稿を描けるようになっていくといいと思います。柘植さんも、男のキャラクターに魅力があります。制服を着た男性の漫画を描くと人気が出そう。
◆奨励賞
『天使のつくりかた』
★作者:徳永龍人 とくなが・りゅうと
プロフィール:1987年10月29日静岡県生まれ。8人家族(全員B型)の中で育ち18歳で自由を求め早々に自立。現在は体の大部分が100グラム38円の鶏胸肉(国産)で造られているのではないかという生活をしている。
★受賞者コメント
この度は奨励賞に選んでいただき、ありがとうございます。読んでてうわぁってなったり、はははっ、え……うぅわぁ……みたいになる漫画が描けるよういろいろ試行錯誤しながら頑張りたいです。
★作品内容
エロくて、怠け者で、すぐ泣く! そんなダメすぎる神様と、美人天使のマリエルが繰り広げる、どーしよーもないお仕事風景。
【選評】
女の子を描くのが大好きであることが強く伝わってきます。画面から非常に気合いを感じました。女の子を描くことに関して徳永さんは、きっと一家言お持ちだろうと思います。絵柄そのものも、愛矯があってかわいらしいです。ただ、キャラクターの表情が全体的に似てしまっているのが気になりました。ついつい描きやすい角度、描きやすい顔が増えてしまうものですが、ネームや下書きの段階で見直してみて下さい。お話については「たまに何か起こってオチる」というパターンが続いてしまうので、24ページのボリュームでは少し読者が飽きてしまうかなと思います。しかし発想はとてもユニーク。その発想が尽きるまで、とにかくこのまま描きまくるのがいいでしょう。
◆奨励賞
『帰路は戦場』
★作者:若生舞 わこう・まい
プロフィール:1986年生まれ宮城県出身。好きなものはごはん! 苦手なもの。弱点はそうそう晒せません……。日々の生活に追われていた頃ふと久しぶりに漫画を描いて、生きてる! と実感して漫画家を本気で目指しだす。
★受賞者コメント
この度はこのような賞を頂き大変光栄です。まだまだ未熟すぎて何者になれるかわからないんですが、最低1万時間は漫画にささげようと思っております。
★作品内容
小学5年生の仲良し3人組タケル、あいり、カイト。放課後、忘れ物を取りに学校に戻ろうとするが、道のりは、なんだかやたらと険しかった!
【選評】
入賞作品中、一番勢いのある漫画でした。決して細かいところまで練り込まれてはいないのだけれど、「笑わせる!」という一点を決めてそこに徹しているので、漫画がブレず、勢いが生まれています。そのおかげで、読むほうも気楽に読み進められる。また、小ネタのストックが多いので、端々でも楽しめます。たとえば小学生男子の服に付いたウンコが最後のページでもまだ臭っていたり、女の子がパンツ丸見えなのにニコニコしていたり。いちいち面白いです。現時点では、若生さんはコメディー向きの画風・作風だと思いますが、思い切ってシリアスなものを描いたら、どんなものが生まれるのか興味があります。作風の幅を固めずに、今は色々描いてみてほしい。その中で若生さんの描きたいもの、若生さんにしか描けないものが出てくるんじゃないかと思います。