TOP > 受賞作品 > 第11回 小説部門
歴代受賞作品
インフォメーション
応募総数
599作品
最終選考候補
9作品
選考委員
青柳昌行(エンターブレイン常務取締役)、河西恵子(ファミ通文庫編集長)、ファミ通文庫編集部
総評
青柳昌行
ライトノベルがジャンルとして成熟してきた分、それを打破しようという動きもおきていくわけで、今回は従来の"型"を破ったような作品も多く見受けられました。こういった創作傾向は新鮮さを感じてうれしい限りですが、新しさだけで終わっては作品としては不十分。そこに読者が根本的に求めている定番のテーマ、恋愛や友情がしっかりと描かれていないと意味がありません。変化球は直球がしっかりしてこそ活きる、ということを踏まえて"型破り"に挑んでほしいものです。
河西恵子
回数を重ねる毎に読み応えのある作品が増えてきているのは大変喜ばしいことです。今回は、ジャンル的にも層が広がってきているのを感じ、斬新なアイデアの作品も多数見受けられました。その一方で、現在のライトノベルの王道とも言える、定番ラブコメで一歩抜きん出た作品が見当たらなかったのが残念です。定番と言われるもので、読み手の心を強く惹きつけられることができれば、それこそ真の実力と言えるのはないでしょうか。
受賞作品
◆優秀賞
『セカイを敵にまわす時』
★作者:本田 誠【ほんだ まこと】
プロフィール:1982年生まれ、東京出身。都内の私立大学を卒業後、紆余曲折を経て小説の投稿を始める。人生なにが起きるかわからない。一年後の自分も全く想像できないそんな日々を送る。
★受賞者コメント
今思えば、最終選考残留を果たした第十回えんため大賞から今回の第十一回えんため大賞に至る半年は瞬く間に過ぎ去った気がします。本当にありがとうござました。
★作品内容
特殊な脳波によって、周囲に自身の妄想を共有させる『空想病』。爆発的な感染力と強力な支配力を持ち合わせ、かつて人類を滅ぼしかけたこともある危険な病だ。中西景の高校受験の面接に乱入してきた少女、藤崎結衣はこの『空想病』患者だった。『空想病』の発作が収まり、正気に戻った結衣に興味をもった景。しかし、彼女と親密になるほどに『空想病』患者として政府の徹底的な監視下におかれた結衣の現実をまのあたりにする。ひとたび発作を起こすと、選ばれし勇者や悪の手先になってしまう結衣と、その妄想のストーリーを完結させる『役者』たち。だが景は、社会から隔離されながらも本来の優しさを失わない結衣に次第に惹かれてゆく。しかし景の努力もむなしく、結衣の病は進行し、ついには現実をも妄想で塗り替えはじめてしまう! 破滅に向かう世界を救うためには結衣を殺すしかない!? 世界か結衣か、心揺れるドラマティックラブストーリー!
【選評】河西恵子
自分に都合の良い物語を脳内で展開していく『空想病』という発想に、思春期的テーマを感じました。ラノベ的なキャラ造形やオタクネタも仕込み、ラブストーリーとしてきちんと描いていてバランスの良い作品です。
◆優秀賞
『B.A.D ―繭墨あざかと小田桐勤の怪奇事件簿―』
★作者:綾里けいし【あやさとけいし】
プロフィール:プロフィール:1987年生まれ、愛知県出身。愛知淑徳大学在学中。就職活動中、五里霧中状態にいたところに賞を頂きました。
★受賞者コメント
最終選考に残ったとのご連絡を頂き一週間。緊張が臨界点を突破し、無我の境地に至った頃、賞を頂きました。水面の様に穏やかな心持ちでお受けする事ができましたが、未だ実感がもてません。身に余る光栄をありがとうございました。
★作品内容
『繭墨霊能探偵事務所』の所長、繭墨あざかは、見えざるものを見、超常の技を使う14歳の美少女だ。常にゴシックロリータを身にまとい、チョコレートばかりを常食し、誰に対しても傲岸不遜な態度を崩さない。そんなあざかに冷徹な言葉を浴びせられながらも、胎に棲むモノを鎮めるためにあざかから離れられない小田桐勤。奇妙な縁で結ばれた二人の元へ舞い込むのは「自殺した姉を殺したい」「耳元で笑う死者」など血にまみれた奇異な事件ばかりだった。そして一連の事件の背後で暗躍していたのは、あざかの兄であり、かつて小田桐の親友でもあった繭墨あさとの姿だった――! 全ての因縁が、兄と妹の確執を生んだ繭墨家へと繋がってゆく。執拗に『あざか』を狙うあさとの真意を知った時、ついに小田桐の胎に棲むモノが覚醒し、小田桐は自身の過去と対面する……。 極彩色の夢とモノクロームな現の狭間を紅い唐傘が舞う、サイケデリックミステリー!
【選評】河西恵子
今までのファミ通文庫にはない魅力を感じました。幻惑的で重厚な世界観と文章。人間の心の光と闇を粘るような筆致で描いた作品に、異物のように存在するゴスロリ少女。そのミスマッチ感がとても新鮮で期待大です。
◆特別賞
『ヒトツナガリテ、ドコへユク』
★作者:庵田定夏【あんださだなつ】
プロフィール:1988年8月8日大阪生まれ。某関西圏国立大学文系学部所属。3回生の夏を迎えそろそろ就職活動に本腰を入れようかという矢先に受賞の連絡を頂戴する。現在人生の方向性に悩み中。
★受賞者コメント
今回大学時代の努力がこのような形で報われることとなって大変嬉しく思っております。至らぬ点が多くより一層の努力が必要なことは自覚しているつもりです。まずは本受賞作を世に送り出せるよう頑張りたいと思います。
★作品内容
「なんでもあり」がモットーの文化研究部―通称・文研部―のメンバー、太一(♂)、伊織(♀)、稲葉(♀)、唯(♀)、青木(♂)。ある日の部室で、唯と青木の二人が、身体が入れ替わったと告白した! さらにその後、3日続けて全員が入れ替わりを体験!? その異常な現象は、タイミングもバラバラで、元に戻る時間はアトランダム! さらに5人の中で誰と誰がどう入れ替わるのかさえ予測不可能!! 平和な日常から一転、強制的に始まってしまったいびつな入れ替わり生活。校内や自宅、お構いなしで入れ替わりが発生する中で、次第に明らかになってゆく、唯の過去や稲葉の葛藤、そして伊織の家庭環境。そこに隠されていたのは、今まで知り得なかった、友の抱える傷跡や苦悩だった。彼らは、至近距離で"他人"と触れ合い比較することで、惑い揺らぎながらも"自己"と向き合い成長していく――。等身大の高校生を丁寧に描いた、魂揺さぶる超感覚ストーリー!!
【選評】河西恵子
"人格入れ替わりモノ"をギミックとして使いながらも、描いているのはきちんとした青春ドラマだったりと、とても面白かった作品です。若干のわかり辛さと、前半のもたつき、問題のエンディングなどが惜しいところです。
◆東放学園特別賞
『U.F.O. 未確認飛行おっぱい』
★作者:大橋英高【おおはしひでたか】
プロフィール:1985年東京生まれ、ホームに行政区分標のある珍しい駅を日々使っている。東放学園専門学校デジタル文芸科に入学し、得難い戦友と出会う。卒業後、書店員のバイトをしながら執筆活動を続け、受賞に至る。
★受賞者コメント
直木賞や芥川賞を受賞する作家さんはこじゃれたバーで待つそうですが、自分は美少女フィギュアを愛でて待っていました。受賞の報告でハチマキが折れました。責任とってください。
★作品内容
乳神様を祀る如月神社の一人息子、如月悠斗。彼は代々如月家に伝わる特殊能力――おっぱいを揉むだけで、そのおっぱいを大きくする力を持っていた。そんな豊胸能力をフル活用し、自称・おっぱい探究者の悠斗は、日夜、女子生徒のおっぱいを揉んで揉んで揉みまくっていた。そんなある日、悠斗は某有名エステ会社の社長、アンジェから突如命を狙われる! 理由もわからぬその襲撃に、命からがら神社に逃げ込んだ悠斗を救ったのはなんと、ご本尊・おっぱい石から現れし、魅惑で美乳の乳神様!! 乳神様から明かされたのは、身体と意識を根こそぎ乗っ取る謎の生命体、未確認飛行おっぱい(通称・UFO)の存在。そしてアンジェの狙いとは、UFOを使った世界征服だった! その野望を阻止出来るのは悠斗だけ!? かくして彼は、全ての女性を救うため、地球の平和を守るため、乳神様と立ち上がる――!! おっぱいへの情熱で編集部を唸らせたハイテンション乳コメディ!!
【選評】河西恵子
とにもかくにも主人公&筆者の溢れんばかりの"おっぱい愛"と勢いを買いました。エピソードが地味な割りに、ぶっとんだ展開になったりと、ドラマ的に未熟な部分はありますが、この勢いは崩さずに邁進していって欲しいです。